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牧田和久 エースの資格 (PHP新書)

優等生ではないわがままなエースよ出でよ、そのためには工夫と決断力が大事というエース論自体は、凄い選手を観たいというプロ野球ファンなら共通した思いを抱いているはずで、著者なら言いそうな想定内のこと。寧ろ超一流のエースだった著者が、新旧の個々の選手、監督、コーチをどう観察しているかに関心を持って読んだ。

私はマネー・ボール的な記録解析をベースにしつつ、記憶に残るエピソードで補強して名投手・野手を選んだPHP新書の「プロ野球最強のベストナイン」(本書の著者を的確に歴代最高の投手の1人に選んでいる)を高く評価するのだが、同書で名選手とされた人・疑問符をつけられた人が本書のそれと一致するのに驚くと同時に、本書の少し食い足りないものを感じる。

例えば鈴木啓示の歴代一位の被本塁打数をどう見るか。著者は同選手の様々な個人記録の中でいちばんすごいものとする。これだと名誉の傷のような捉え方だ。しかし、被本塁打率(9イング当たりの被本塁打数)という尺度を適用すれば鈴木啓示の数字は決して悪くなく、寧ろ江川卓がワーストにずっと近い。それは著者の言う「考えていない」を数字でまざまざと示す。本書では同じことを著者の観察及び山倉の証言で裏付ける。

客観的なマネー・ボール的考察は現代のプロ野球論に必要だと思う。しかし、それだけではこぼれ落ちる何かがある。そういうものを求める術として本書は貴重。例えば末次の打席でのふてぶてしさ、落合が大選手に飛躍した雀荘での一瞬、岩瀬の起用法に監督としての落合の選手思いの情を見る、といった本書の細部にとても惹かれる。 エースの資格 (PHP新書) 関連情報




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